2020年10月15日
温泉考座 (37) 「未病のための湯治」
「温泉は病気には効かないが、病人には効く」
と言われます。
これは、どういうことでしょうか?
温泉には様々な効能があり、その泉質で効果がある症状を 「適応症」 といいます。
温泉地に掲示されている 「温泉分析書」 の適応症の項目を見ると、神経痛や関節痛、筋肉痛、五十肩などの疾患や症状、または消化器病や皮膚病、婦人病、動脈硬化症、高血圧症といった慢性病のたぐいが書かれています。
しかし、決して病気や症状が “治る” とは書かれていません。
日本で温泉療法は、医療としてヨーロッパのようには認められていないからです。
では、なぜ温泉には効能があるのでしょうか?
これが 「温泉は病気には効かないが、病人には効く」 と言われるゆえんです。
言うなれば温泉には、漢方でいうところの “未病 (未然に病気を防ぐ)” 効果があるのだと、私は考えます。
日本人の平均体温は36.5度前後ですが、最近は35度台の低体温の人が増えているそうです。
この低体温化は、入浴をシャワーだけで済ます人が増えたことと無関係ではありません。
シャワーは体の汚れを洗い流すだけで、入浴のように体を温めることができないからです。
体温が1度上がると体内の免疫力は5~6倍アップし、逆に1度下がると約30%も下がると言われます。
風邪を引くと発熱するのも、白血球がウイルスと戦うために好条件とされる37.2度以上に体内温度を上げているためです。
また、がん細胞が最も活発になるのは体温が35度の時という説もあります。
だとすれば低体温が、いかに病気の温床となるかが分かります。
昔の日本人が季節や労働の節目に湯治へ出かけたのも、病気を治すだけの目的ではなかったと思います。
温泉に入ることで、体温を上げて免疫力を高め、予防を心がけていたと解釈する方が正しいかもしれません。
先人たちは長い間に培われた健康への知恵として、湯治という民間療法を実践していたのです。
私たち現代人も、未病のための湯治文化を、もっと生活に取り入れるべきだと思います。
<2014年1月29日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:00│Comments(0)
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