2020年12月20日
温泉考座 (55) 「温泉は生きている」
私は 「一軒宿」 と呼ばれる小さな温泉地に魅せられ、群馬県内の取材を続けてきました。
そこには大きな温泉地のように、歓楽施設やみやげ物屋はありません。
山の中や渓谷のほとりに、一軒の宿がポツンとたたずんでいます。
一軒宿のほとんどは、自家源泉を保有しています。
そして何十年、何百年と湧き続ける源泉を守り継いでいる 「湯守(ゆもり)」 がいます。
たった一軒で湯と歴史と温泉名を守っている姿に、私は本来の温泉地の有り様を見いだしています。
しかし 「一軒宿」 ならではの問題も抱えています。
何軒も宿のある温泉地ならば、一軒が廃業しても温泉地自体が無くなることはありません。
ところが一軒宿の温泉地は、その宿が廃業してしまうと、温泉地までもが地図から消えてしまうことになります。
一軒宿の温泉地は、絶滅の危機に瀕しているといえます。
私は2009年に 『ぐんまの源泉一軒宿』(上毛新聞社) という本を出版しました。
取材し、掲載した宿は50軒。
数軒に取材を断られたものの、県内の一軒宿をほぼ網羅しています。
その5年後のこと。
たかが5年の間に、4軒の宿が廃業していることに気づきました。
経営不振、後継者不在など理由は様々ですが、年々、一軒宿の温泉地が減っているのは確かです。
明治25(1892)年に発行された群馬の温泉分析書 「上野鉱泉誌」 には、74ヶ所の温泉地が掲載されています。
この中で現存する温泉地は、わずか30ヶ所。
120年の間に40ヶ所以上の温泉地が消えたことになります。
当時は、まだ現代のように地中深く機械で掘削して温泉をくみ上げる技術のなかった時代です。
となれば消えた温泉は、すべて自噴泉だったことになります。
2014年4月、私は再度、県内の一軒宿を取材して 『新ぐんまの源泉一軒宿』(同) を出版しました。
消えた温泉がある一方で、後継者が現れて営業を再開した宿もありました。
また掘削技術の進歩により、新たに誕生した温泉宿もあります。
消える温泉、生まれる温泉。
そして、ふたたび息を吹き返す温泉。
「温泉は生きている」 と、つくづく感じます。
<2014年6月25日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:08│Comments(0)
│温泉考座