2021年01月26日
温泉考座 (64) 「熱くてもクールな浴感」
川全体が野天風呂になっていることで有名な尻焼(しりやき)温泉 (中之条町)。
源泉の噴き出し口が長笹沢川の川床にあり、人が入れるだけの穴を掘り、裸になって座ると尻が焼けるように熱くなることから 「尻焼」 の名が付いたといわれています。
昔から痔(ぢ)の治療に効果があるとされてきました。
かつては 「尻焼」 の文字を嫌って、温泉名を 「尻明(しりあけ)」 「白砂(しらす)」 「新花敷(しんはなしき)」 などと呼んだ時代もありました。
この温泉の発見は古く、嘉永7(1854)年の古地図に温泉地として記されています。
村人たちが利用していたようですが、旅館が建ったのは昭和になってからのこと。
下流にある花敷温泉の旅館が、別館を建てて開業したのが始まりでした。
花敷温泉が古くから開けていたのに比べ、尻焼温泉の開発が遅れた理由は、道が急峻だったことと、温泉周辺におびただしい数のヘビが生息していて、人々を寄せ付けなかったからだといわれています。
現在、3軒の温泉宿があり、すべて異なる源泉を使用しています。
その中で唯一、自家源泉を所有する 「ホテル光山荘」 の湯は、不思議な浴感があることで知られています。
泉温は約54度。
加水をしていないので、浴槽の湯は、かなり熱めです。
すぐに体を沈めることはできません。
そこで役に立つのが、浴室に備えてある大きな 「湯かき棒」 です。
これでジャバジャバと豪快に湯をもんでやります。
すると今度は抵抗なく、スーッと体が湯の中へ入って行くのです。
もちろん、それでも熱いのですが、不思議とクールな浴感であることに気づきます。
まるでミントの入浴剤を入れた湯の中に入っているような清涼感があるのです。
その感覚は、湯から上がってからも変わりません。
あれほど熱い湯に入ったにもかかわらず、体がほてることなく、まったく汗が噴き出しません。
なんとも涼しい湯です。
私が訪ねたのは真夏でしたが、その晩は爽快な気分で床に就きました。
<2014年10月1日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:24│Comments(0)
│温泉考座