2021年02月13日
温泉考座 (68) 「医王仏が見守る薬湯」
何百年と歴史のある古い温泉には、必ず 「お薬師さま」 が祀られています。
観音山丘陵の山里に約300年前から湧き続けている坂口温泉 (高崎市) も、そんな西上州を代表する薬湯の一つ。
重曹を含む弱アルカリ性の食塩泉は、特に皮膚病に効くといわれ、今もなお、遠方より多くの湯治客が訪れています。
一軒宿の 「小三荘(こさんそう)」 は、昭和25(1950)年創業。
しかし、戦前から湯屋があり、4代目主人、山崎孝さんの伯父が立ち寄り湯として営業していました。
東京で暮らしていた山崎さん一家は、空襲で焼け出され、父親の実家がある旧吉井町にもどり、戦後になって湯守(ゆもり)の仕事を継ぎました。
「終戦直後の娯楽のない時代のこと。私はまだ小さかったのですが、来る日も来る日も入浴客でにぎわっていたことを覚えています。あせもやオムツかぶれを治しに、赤ちゃんを抱えた女性が多くやって来ていました」
古くは 「たまご湯」、明治時代は 「塩ノ入鉱泉」 と呼ばれていました。
塩気があり、玉子の白身のようにトロンと肌にまとわりつくことから、そう名付けられたようです。
その浴感は、まるでローションを体に塗っているようなツルツル感があり、かすかに硫黄の香りもします。
浴室から見える裏庭に、いくつもの小さな石仏が並んでいます。
その数、30体あまり。
これは開湯以来 「薬師の湯」 として、人々の病を癒やしてきた祈願と感謝の名残だといいます。
地元では親しみを込めて 「お薬師さま」 と呼ばれていますが、別名 「医王仏」 とも言われる祈願仏です。
現代のように医学が発達していなかった時代のこと。
先人たちにとって 「薬師の湯」 は、願いをかなえてくれる、よりどころだったに違いありません。
病気やケガを治してもらったお礼に奉納された小さな石仏群は、代々の湯守たちによって、大切に守られてきました。
石仏群の中には、真新しいものが何体か見られます。
平成の世になっても奉納する人がいるようです。
※(「小三荘」 は2015年に閉館しました)
<2014年11月5日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:01│Comments(0)
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