2021年08月05日
湯守の女房 (23) 「湯がにごると、天気が崩れます」
坂口温泉 「小三荘」 高崎市
群馬県の山間部の温泉は泉温が高いが、平野部は温度が低い冷鉱泉が目立つ。
ボイラーのない昔から、人々が温めてまで入浴した冷鉱泉には 「薬湯」 が少なくない。
その一つ、坂口温泉は約300年前から湧き続けている薬湯だ。
弱アルカリ性の食塩泉は、皮膚病に効くといわれる。
昭和25(1950)年創業の 「小三荘(こさんそう)」 は、日帰り入浴客にも人気の湯治場だった。
厨房を預かる女将の山崎照代さんは、いつもニコニコしている。
甘楽町生まれで、同39年に4代目主人の孝さんと結婚し、宿に入った。
今も宿泊客の多い日を除き、主人と長女の家族3人で切り盛りしている。
「農閑期になると近在の農家の人たちで、いっぱいになりました。重曹を含んでいるので、『おまんじゅうを作るのに源泉を分けてほしい』 と言う人も来ました」
と振り返る。
お湯が自慢だ。
「とっても不思議な湯なんです。にごる日もあれば、透明の日もある。湯がにごると、天気が崩れます」
と教えてくれた。
以前、雨の日に訪ねたことがあったが、確かに白濁していた。
今回の取材の日は、快晴。
予想通り、浴槽の湯は無色透明だった。
はっきりしない天気だと、薄黄色の時もあれば、淡緑色の時もあった。
ただ、トロンと肌にまとわりつく濃厚な浴感は、いつも変わらない。
これが昔から 「たまご湯」 と呼ばれるゆえんである。
浴槽の窓の戸外に、小さな石仏群が見える。
地元では 「お薬師さま」 と呼ばれ、「医王仏」 との別名もある。
頼るべき医薬のなかった時代、先人たちが病を治してもらったお礼に奉納した石仏たち。
盗難や風化によって30体余りになってしまったという。
平成の世になっても奉納する人がいるらしく、真新しい石仏も何体か見られる。
「今の人は、ゆとりがないのでしょうね。かつてのように連泊する人が少なくなり、日帰り入浴客も風呂につかって、すぐに帰ってしまう人が多くなりました」
と、ちょっと寂しそうな顔を見せた。
温泉の入り方が変わったというが、それでもここの湯に惚れ込んでやって来る人が、今でもたくさんいる。
浴室で常連客の男性と一緒になった。
「子どもの頃から、よく親に連れて来られたよ。あせもなんか1、2回入れば治った。ここの湯に入ると、よその温泉は物足りなく感じるね」
と話した。
「旅館の仕事は長くて、大変だけど、お客さまが喜んでくだされば苦労とは思いません」
そう言って、照代さんは笑った。
<2012年3月28日付>
※「小三荘」 は現在、休業しています。
Posted by 小暮 淳 at 13:11│Comments(0)
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