2022年01月11日
西上州の薬湯 (1) 「薬師像が見守る起源300年のたまご湯」
このカテゴリーでは、2016年12月~2018年2月まで関東新聞 「生活info(くらしインフォ)」 に連載された 『西上州の薬湯』(全15話) を不定期にて掲載いたします。
※肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
倉渕温泉 「長寿の湯」 高崎市
清流、長井川をはさんだ宿の対岸に、大きな源泉櫓(やぐら)が立っている。
櫓の下には小さなお堂があり、薬師如来像が祀られている。
約300年前、霊験著しい湯の御利益に対して、旅人たちが感謝を込めて安置した 「湯前(ゆぜん)薬師」 だと言われている。
「雪解けの早い場所があり、そこには薬師像もある。地元では昔から “たまご湯” と呼ばれる幻の薬湯が湧いていたと伝わる。だから、ここは絶対に温泉が出る」
東京でボーリング会社を営んでいた主人の川崎秀夫さんは、丸3年間通い続けて温泉の掘削に成功した。
昭和63(1988)年のことである。
平成3(1991)年に念願の温泉旅館をオープンしたものの、バブル崩壊のあおりを受け、あわや廃業の窮地に追い込まれることもあった。
同15(2003)年、「温泉旅館はお父さんの夢。絶対に手放すわけにはいかない」 と、東京で暮らしていた女将の節子さんが一念発起。
湯と宿を守るため、単身で群馬にやって来た。
それまでの宿泊メインの経営から、女将の郷里である山梨県の温泉地で見かける宿泊と日帰り入浴客の両方を受け入れるスタイルに移行し、積極的に湯の良さをアピールした。
その甲斐もあり、口コミで噂を聞いたリピーターが増えた。
今では草津の帰りに “仕上げ湯” として立ち寄る常連客も多い。
湯はサラリとして肌によく馴染む単純温泉。
“たまご湯” の名のとおり、とても滑らかで、湯の中で手をこすると、キュッ、キュッと音が鳴る。
美肌効果があり、切り傷ややけど、皮膚病に効くといわれてきた。
「腰痛、肩こりなど畑仕事の疲れが軽くなる」
「風邪気味でも湯に入れば体調が良くなる」
「毎日通ったらアトピーが治った」
など、ファンから寄せられた声に人気のほどが知れる。
「ここはさ、湯もいいけど、なんたって女将さんがいいんだよ」
と20年間通い続けているという地元客は、満足そうに笑った。
「ここに来ないと、一日が終わった気がしないんさね」
とも。
渓流を望む露天風呂からは、源泉櫓とお堂が見える。
お堂の中では、薬師様が今も昔と変わらずに旅人の安全と健康を見守っている。
もちろん、見知らぬ土地で奮闘する女将の姿もだ。
<2016年12月2日付>
Posted by 小暮 淳 at 14:04│Comments(2)
│西上州の薬湯
この記事へのコメント
年末に泊まったばかりですが、ブログを読んだら、また行きたくなっちゃいました!
Posted by センネンボク at 2022年01月11日 19:41
センネンボクさんへ
行っちゃってください!
今年もよろしくお願いします。
行っちゃってください!
今年もよろしくお願いします。
Posted by 小暮 淳 at 2022年01月11日 22:12