2022年05月07日
ぐんま湯けむり浪漫 (4) 川場温泉
このカテゴリーでは、2017年5月~2020年4月まで 「グラフぐんま」 (企画/群馬県 編集・発行/上毛新聞社) に連載された 『温泉ライター小暮淳のぐんま湯けむり浪漫』(全27話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
川場温泉 (川場村)
「脚気川場」 といわれるゆえん
川場温泉の開湯は定かではないが、こんな発見伝説がある。
昔、川場の村は水不足に苦しんでいた。
ある日のこと、老婆が洗い物をしていると、一人の坊さんが訪ねて来て、言った。
「水を一杯、くださるまいか」
しかし、飲み水は遠い沢から汲んで来なければならない。
それでも老婆は、困っている坊さんを放っておけず、わざわざ沢まで行って、水を汲んで来てあげた。
「ばあさん、このあたりは水が不自由なのか?」
「はい、水もさることながら、もし、お湯が湧いたらどんなによろしいでしょう。このあたりには、脚気(かっけ)の病人が多うございます。脚気には、お湯がいいと聞いております」
「なるほど」
と、うまそうに水を飲み終えた坊さんは、やがて持っていた杖の先で大地を突いた。
すると不思議なことに、そこから湯煙が上がり、こんこんと湯が湧き出したという。
この坊さんが弘法大師 (空海) だと知った村人たちは、湧き出る湯に 「弘法の湯」 と名付け、尊像を安置した弘法大師堂を祀った。
これが昔から 「脚気川場」 といわれるゆえんである。
龍の彫刻が美しい湯前薬師堂
武尊(ほたか)神社は、享保3(1718)年に薬師如来を祀る川場温泉の湯前薬師堂として建てられた。
屋根は銅板ぶき入り母屋造りで、三間四面造りの勾欄(こうらん)=(反り曲がった欄干) を四面に回した堂造り。
千鳥破風(ちどりはふ)=(屋根の斜面に取り付けた三角形の装飾板) の正面に、向拝(ごはい)=(張り出したひさし) は唐破風(からはふ)=(曲線上の装飾板) 付きという変わった構造の建築様式である。
社殿の内外部に施された木彫は見ごたえがあり、特に向拝の紅梁(こうりょう)=(反り返った化粧梁) に絡みつくように掘られた龍の彫刻は、精緻かつ華麗で、息をのむほどに美しい。
建築装飾という枠を超えて、彫刻そのものとしての価値が高く評価されている芸術品である。
宝暦5(1755)年に修復が行われ、享和4(1804)年に現在の本殿が完成した。
源泉は今でも神社のすぐ脇に湧いている。
その湯は無色透明で、ほのかに硫黄 (硫化水素) の匂いがする。
脚気患者が少なくなった現代では、神経痛やリウマチ、腰痛、関節の痛みに効き目があるといわれている。
<2017年9月号>
Posted by 小暮 淳 at 11:52│Comments(0)
│湯けむり浪漫