2022年05月13日
ぐんま湯けむり浪漫 (5) 下仁田温泉
このカテゴリーでは、2017年5月~2020年4月まで 「グラフぐんま」 (企画/群馬県 編集・発行/上毛新聞社) に連載された 『温泉ライター小暮淳のぐんま湯けむり浪漫』(全27話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
下仁田温泉 (下仁田町)
傷ついたイノシシが浴びた霊泉
上信電鉄の終点、下仁田駅から徒歩で約20分。
車なら5~6分の距離だ。
なのに不思議と訊ねるたびに秘湯へたどり着いた気分になる。
対面通行も困難な、ガードレールのない山道を行くからかもしれない。
この道で、いいのだろうか?
と、かすかに不安が脳裏をよぎった頃、左手に駐車場の看板が見えてくる。
下仁田温泉の一軒宿 「清流荘」 は、ここから急坂を下った渓流沿いの森の中にある。
清流、栗山川沿いに広がる敷地は、約7坪。
池や小川が配され、その周りに本館と7つの離れ家、浴室棟、露天風呂が点在する。
宿の裏手には2,400坪を超える自家農園があり、常時20種類もの野菜が完全無農薬で栽培されている。
また敷地内にはシカ園やキジ園、イノシシ牧場もある。
宿の創業は昭和49(1974)年。
それ以前は、ヤマメやニジマスなどの川魚を養殖しながら飲食店を営んでいたという。
約1キロ上流の湧出地から源泉を引いて温泉宿になったのは、創業から3年後のことだった。
湯の起源は定かではないが、傷ついたイノシシが浴びているのを村人が発見したと伝わる。
昔から山岳信仰の修験者が修行に使っていたといい、地元では皮膚病に効く霊泉として利用されてきた。
手間をかけた唯一無二のもてなし
「うちは米以外は、すべて自給自足。地産地消なんていう言葉ができる前から敷地内産地直送だよ」
と、裏の畑で先代の清水幸雄さんがほほ笑んだ。
「地元の食材を提供するのが、本来のもてなしの姿」
と創業以来、自家製食材にこだわった料理を提供している。
宿の名物として知られている 「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」 は、この地に伝わる祝い事に欠かせない郷土料理。
もちろん、すべての食材が敷地内で揃う。
「イノシシ肉は豚肉に比べると硬いというが、それが日本古来の高級食材の味。下仁田ねぎも同じです。限られた農家が手間と時間をかけて作っている唯一無二の食材なんです」
と、2代目主人の清水雅人さん。
下仁田ねぎの主産地である馬山地区にある、先祖から受け継いだ畑を案内してくれた。
清水家は、下仁田町認定の 「下仁田葱の会」 会員農家でもある。
下仁田ねぎは、毎年10月頃に種をまいき、2回の移植と土寄せを行い、翌年の11月下旬から12月にかけて収穫をする。
出荷までには15ヶ月もの月日を要する。
しかも栽培に適した土壌と気候がある下仁田の特定地域でしか、おいしいネギにはならない。
これが下仁田ねぎが “幻のネギ” と呼ばれるゆえんだ。
この時季、生産農家の宿ならではの料理が並ぶ。
鍋の具材としてはもちろんのこと、ネギぬた、ネギみそ、かき揚げとなって食膳に彩を添える。
下仁田温泉 清流の湯
泉質は全国の温泉の中で1%だけという珍しい炭酸泉。
泡の出る入浴剤の150倍以上の二酸化炭素含む。
湯は無色透明で、ほんのりと化粧乳液のような匂いがする。
時間の経過とともに、湯舟に流氷のように白い泡のかたまりが漂うのが特徴。
これはカルシウム成分で、皮膚の角質をやわらかくして、脂肪分や分泌物を洗い流す効果があるという。
<2017年10・11月号>
Posted by 小暮 淳 at 13:53│Comments(0)
│湯けむり浪漫